教員紹介

慶應独文学専攻の教員は、学生の多様な関心領域に対して応えられる幅広い領域を研究対象としています。

専攻スタッフ(五十音順)

片山由有子文学部助教

専門:中世ドイツ文学・女性神秘思想

中世のドイツ語圏で書かれた文学を専門にしています。中心的に扱っているのは女性が執筆したテクストです。ドイツ文学史において、女性の作品群が重要な位置付けを持つ時代は(現代を除けば)中世のみといえます。では中世が女性にとって特別に執筆の容易な時代であったのかというと、決してそうではありません。彼女たちが書き記したのは専らキリスト教に基づく宗教経験(神秘思想)なのですが、女性たちの個人的・共同体的なモチベーションと、それを承認する社会の相互作用のなかでのみこれらのテクストは成立し得ました。私はこのような、中世のテクスト形成を可能にした個人と社会との繋がりを、現象学的な手法で研究しています。

片山由有子
川島建太郎文学部教授

専門:近現代ドイツ文学,メディア理論

ドイツのメディア理論は、新聞やテレビのようなマスメディアのみならず、さまざまなメディアを広く扱います。たとえば声と文字、書物、写真や映画、蓄音機のようなアナログの記憶メディア、手紙や電話のようなテレコミュニケーションメディア、コンピュータやインターネットなどのデジタルメディア、さらには貨幣や法や制度までもが対象となります。私の研究は、1)そのようなメディアの歴史を「文化」の基底としてとらえること、2)メディア史を背景として近現代ドイツ文学を読みなおすこと、を目指すものです。

複製技術理論で有名なヴァルター・ベンヤミンの研究からスタートしたのですが、いまだにそこから抜け出せていません。一番好きな作家はフランツ・カフカです。現代のドイツ語圏の文学もちょこちょこかじっています。学部で学んでいた頃は映画批評家になることを夢見ていました。趣味は釣り、料理、ジョギングです。

川島建太郎
粂川麻里生文学部教授

専門:近現代ドイツ文学、スポーツ文芸、ポピュラー文化論

18世紀の詩人ゲーテはドイツ語圏においていわゆる「近代化」が本格化した時代に、その文明の方向に大きな危険があることを意識し、それに対して学問、思想、芸術の領域でさまざまな発信・表現を行った人でした。近代という時代は、それに先行した中世と比べると、宗教の力が後退し、国民国家が需要な枠組みとして浮上し、民主主義に移行するする国が出てきた時代です。それと並行して、印刷術等の発達によって科学が発達して「真理」の基準となる一方で、情報や各種表現の流通が激増して、何が本当か分かりづらくなる面もあるという時代でもあります。そんな流れの中で、ゲーテは、「科学は本当に『真理』の基準になるのか?」「『生命』や『心』を科学することはできるのか?」「国民国家による戦争はどうすれば避けられるのか?」「民主主義は政治の方法としてどこまで有効なのか?」など、現代の我々にとっても重要な問いを根本から問い続けました。彼の仕事はその後も思想や文化の傍流の中で継承され、現代にも生きています。私はそれを、文学や学術はもちろんのこと、スポーツやポピュラー音楽といった、大衆的な文化の中でも研究をしようとしています。

粂川麻里生
佐藤恵文学部助教

専門:歴史語用論、ドイツ語史

ことばの使い方から当時の社会や人間関係を読み解くような言語史研究に魅力を感じて研究を始めました。私はいま、モーツァルトの手紙やベートーヴェンの筆談帳を研究して、今から200年ほど前に書かれた言語データから当時の書き手たちの人間関係や心の動きを再構成するという研究をしています。しかし、ことばを真にとらえるには、ことばの背景にある社会や文化に関する知識が必要になります。歴史的段階の言語の実態から当時の人びとの言語意識を垣間見るという試みに難しさを感じることもたびたびありますが、慶應独文学専攻の先生方や学生さんたちの知恵も借りながら、楽しく研究を進めています。

佐藤恵
田中愼文学部教授

専門:ドイツ語言語学、言語理論、テクスト言語学

ドイツ語を中心に言語を研究しています。言語の研究は面白くて飽きません。謎に満ちています。「なんでこんな言い方をするのか?」ということだらけです。各言語は多様で本当にいろいろな「言い方」を持っています。この多様性は、非常に魅力的なものでドイツ語ではドイツ語の文化と深く結びついています。一方で言語は、びっくりするぐらい共通する特徴を持っています。日本語とドイツ語の文法は一見するとぜんぜん違うものですが、少し抽象化すると同じしくみが隠れています。まだ見つかっていないしくみもたくさんあります。ヨーロッパの言語で広く見られる名詞の性はなんで日本語にないんでしょう?

そんな謎を探るのは楽しいので、日常でもいろいろ観察して、「どうしてこんな言い方をするんだろう」ということを考えています。ドイツ、オーストリアアルプスをマウンテンバイクで登るのを一番の楽しみにしていますが(そのために日本でもあちこち自転車で走っています)、そんなときにひらめきがあったりします。

田中愼
西尾宇広文学部准教授

専門:近代ドイツ文学

18世紀から19世紀にかけてドイツ語で書かれた文学をおもな研究対象にしています。文学研究といえば、文学部の王道(?)の研究分野のひとつかもしれませんが、私自身は、そういう伝統的な文学研究と、歴史学や社会学、あるいは思想研究の交差点にいる感覚で、いつも仕事をしています。フィクションである文学をひとつの文化現象と捉えつつ、それを大きな歴史的・社会的・思想的な文脈のなかに位置づけることで、公文書をもとに再構成された歴史とは一味違った過去の時代の姿を垣間見る、というのが、私の研究の基本的なスタイルです。とくに関心をもって取り組んでいるテーマは、社会学で議論されることの多い「公共圏(public sphere)」という主題と文学との関わりですが、最近は少し手を広げて、近代以前の「バロック文学」についての勉強をはじめたり、ドイツ語以外の言語圏を専門にする研究仲間と連携しながら、19世紀の「リアリズム文学」にかんする研究会を運営したりもしています。

じつは大学に入るまでほとんど本を読まない人間だったので、いわゆる文学青年(少年)だったわけでは全然ありません。にもかかわらず、そんな自分がいまこういう仕事をしているのは、大学時代に本の読み方と楽しみ方、それについて他人と議論することの醍醐味を学べたからだと思います。そういう貴重な時間を共有できる、学生のみなさんとの出会いを楽しみにしています。

西尾宇広
平田栄一朗文学部教授

専門:ドイツ演劇・演劇学

演劇を出発点にして、世界のあらゆる事象について考えることの意義を模索しています。演劇はよくわらかないとか、どうでもよいように思えるかもしれませんが、物事を見つめ直す重要なきっかけをもたらしてくれるものでもあります。というのも舞台上の世界は現実世界を別様に反映しているのですが、それは日常・社会・思想・政治・メディアテクノロジーといった私たちにとって重要な事柄の「もう一つ」のあり方、すなわち世界の異なる可能性を提示しているからです。このもう一つの可能性にどんなものがあるのか、それが私たちにとってどれほど有意義になるのかについて――舞台を見ながら、また学生さんたちと語り合いながら――探究しています。

ゼミナールHP

平田栄一朗
アンドレアス・ベッカー文学部訪問准教授

専門:ドイツ文学とドイツ語、ドイツ・日本映画、メディア学

文学と映画は人間の感情を特別な方法で表現するメディアと言えるでしょう。文学は言葉を用いて私たちを登場人物へと引きこみ、映画は視覚的、聴覚的に描かれた世界を私たちに共体験させます。これにより、私たちがたとえば物語を複数の視点から想像し、異文化を知り、過去の時代に身を置くことで、興味深い効果と語りの可能性が生じてきます。それに加えてどのメディアも固有の仕方で時間を経験させ、特にそうした点に関心をもって研究しているのですが、時間は操作され、編集され、低速度化、そして高速度化されます。

私は特に次の三人の作家に集中して研究してきました。すなわち、ドイツの作家で映画監督であるアレクサンダー・クルーゲ、エッセイスト・文学者・メディア思想家のヴァルター・ベンヤミン、そして日本の映画監督、小津安二郎です。最近は恥と罪の意識が文学や映画においてどのように描かれているのかという問題に取り組んでいます。特に現代ドイツ映画(ベルリン学派)や映画監督との対談にも非常に興味をもっています。

Dr.Andreas Becker HP

アンドレアス・ベッカー
Foto: Alexander Kluge „Happy Lamento“ (2018) - Filmvorführung und Gespräch mit dem Regisseur 13. Mai 2023 (im Athénée Français Tōkyō)
写真:アレクサンダー・クルーゲ 『ハッピー・ラメント』(2018) 映画上映に続いて Zoom-Talk アテネ・フランセ文化センター(東京)
マルクス・ヨッホ文学部教授

専門:現代文学とそのメディア的特徴

人は文学によって自由になれるのです。文学的な物語が創造されるたびに、言葉は型から解き放たれて独自の個性を帯びて、私たちの関心領域である日々の生活、愛、幻想、諸問題、トラウマ、政治、仕事について語りかけてきます。こうして文学は可能性や現実に対する私たちの感性を鋭くしてくれるのです。私のゼミナールでは主にドイツ文学と映画・ポップミュージックなどのメディアとの関係を考察対象としています。さらには文学の政治的な起爆力、それからこれがとても大切なのですが、文学の喜劇性も議論の対象にしています。その際フランスの社会学者ピエール・ブルデューの論に依拠しつつ、作家という存在が文学界においてどのようにして社会的地位を築いていったのかという問いに取り組んでいます。

主な研究領域は次の通りです。20世紀ならびに21世紀の文学作品、とりわけ1945年以降の文学作品、1989年というドイツにとって節目になった年以降の文学作品。

KEIO RESEARCHERS INFORMATION SYSTEM

マルクス・ヨッホ